労働判例・裁判例紹介 弁護士西川暢春

弁護士西川暢春がやっている労働判例postの補足ブログです。Xでは140文字以上は予約投稿できないため、長いものはこのブログで書いております。

35年以上続いた定期昇給を中止できる?

東京地裁R5.10.30 学校法人が35年以上行なってきた4月の定期昇給を財政状況により中止。これに対し、職員らは定期昇給は労使慣行であると主張 →法的効力のある労使慣行が成立するためには、長期間の継続だけでなく、慣行が労使双方の規範意識によって支えら…

変形労働時間制採用のために就業規則に260ページにわたる別表を設けてシフトパターンを定めた事例

大阪地裁R4.2.221か月単位の変形労働時間制を採用のために、就業規則に、260ページにわたる別表を設けて始業時刻、終業時刻のパターンを定めた。そのうえで「社員の就業時間、各日の始業および終業時刻、所定労働時間並びに休憩時間については、別表による就…

役付手当を固定残業代と位置付ける賃金規程の効力について判示した事例

名古屋高裁R2.5.20賃金規程に「役付手当は、課長、所長代理以上を対象に、役付に付随する責任に対し手当するとともに、雇用契約書等において特定した時間分の所定休日労働に対する割増賃金として、月額5万円から30万円の範囲で毎月固定額を支給する」と定…

適応障害による休職からの復職後も異常行動がある従業員に対する再休職命令の効力

大阪地裁R2.7.9適応障害で休職していた従業員が復職後から異常行動があり、指定医の受診も拒んだため、会社は再休職を命じた。その9か月後に休職期間満了により退職扱いとした。→再休職を命じられた時期に、①周囲が静かであるのに音が気になって業務に集中で…

覚醒剤使用で懲戒解雇された従業員の退職金不支給についての判断事例

東京地裁R5.12.19 鉄道会社が覚醒剤使用で有罪判決を受けた車両検査主任を懲戒解雇し、退職金規程に基づき退職金を不支給とした →5年の覚醒剤使用歴があり、依存性は軽視できない。安全運行を支える現業職で覚醒剤が体内に残る状態で検査業務に従事していた…

復職のために会社が指定した医師作成の証明書を要すると定める就業規則の効力について判示した裁判例

東京地裁H26.8.20就業規則で、私傷病休職について「傷病が治癒し且つ通常勤務に耐えられる旨の会社が指定した医師の作成した証明書の提出を求め、復職できると会社が認めたとき」に復職を認めると定めた→労働者が債務の本旨にしたがった履行の提供をしている…

ハラスメント調査に求められる中立性・公平性について判示した裁判例

東京地裁R1.11.7大声での執拗な叱責等がパワハラにあたるとして訓戒処分を受けた人事部の課長が、パワハラを認定した社内調査の結果は誤りであるとして、処分の無効を主張した→調査を行ったのは使用者から依頼を受けた顧問弁護士であるものの、使用者から意…

職場内の人間関係を理由に休職者の復職を認めないことは可能?

大阪高裁H27.2.26 双極性障害による休職からの復職を認められなかった休職者が「職場内の人間関係を理由に復職を認めなかったことは不当である。人間関係の調整は会社が業務命令で実行すべきである」と主張 →この従業員の休業は3回目であり会社は過去2回復…

職場内での悪影響を理由に復職不可とできる?

横浜地裁H30.5.10 うつ状態と適応障害で休職中の職員について主治医が就労可能と診断。しかし、事業者は産業医の復職不可の意見を参考に退職扱いとした →産業医の意見は、休職前の状況からすると復職は他の職員に多大な悪影響が出るということが理由だが、こ…

職場内で秘密録音したデータを民事訴訟の証拠として利用できる?

東京高裁R5.10.25 歯科医院に勤務する職員が、理事長が院内で自身の悪口を言っている疑いをもち、院内の控室に秘密裏にボイスレコーダーを設置。理事長に対する訴訟でこの録音を自身に対するハラスメントの証拠として提出した →従業員の誰もが利用できる控室…

正社員に寒冷地手当を支給するが契約社員には支給しないことは違法?

東京地裁R5.7.20 日本郵便が正社員には寒冷地手当を支給するが契約社員には支給せず→寒冷地手当は寒冷地に勤務する正社員の暖房費等増加を補助し、勤務地による正社員間の公平を図る趣旨で支給されている。一方、契約社員は勤務地ごとの生計費も考慮して勤務…

労災請求における事業主証明の拒否が問題になった事案

大阪地裁R5.7.27従業員が労災保険の休業補償給付支給請求書を送付し、労働保険番号や事業所情報の欄等を記入するように求めた。しかし、会社は事業主の証明等がなくても請求書は受理されるので、請求手続は従業員の方で進めるようにと返答。→労働保険番号、…

暴力を伴うパワハラについて被害者の復帰までに加害上司を配置転換する義務があったとされた事案

静岡地裁R3.3.51月27日に女性職員が上司から左上肢を3回こぶしで付く暴力を伴うパワハラを受け、2月5日に不安焦燥状態で1か月の自宅療養を要すると診断された。主治医からは加害上司と一緒に仕事をする状況での復職に消極的な見解が示された。また、女性職員…

1年以上服薬せずに日常生活を送っていた休職者の復職可否判断

名古屋地裁R3.8.23躁うつ病(双極性障害)で休職していた休職者が復職を申し出たが、会社は認めず、休職期間満了により解雇した→休職者は復職を申し出た当時、1年以上服薬せずに日常生活を送り、生活リズムや気分が安定していたことは認められる。しかし、双…

「復職可能であり、3か月間は短時間勤務及び軽度業務に限る配慮が必要」と主治医が診断した事案についての復職可否判断

長崎地裁R1.12.3統合失調症の休職者の復職について主治医は「復職可能であり、3か月間は短時間勤務及び軽度業務に限る配慮が必要」と診断→一方で、その後の照会に対して、主治医は、『復職可能性について客観視できるデータがないため、就労がかなわない場合…

入社後約4年間にわたり「残業手当」の名目で支給していた賃金が時間外労働の対価とは言えないとされた例

札幌地裁R5.3.31運送会社が運転手の売上の10%を「残業手当」の名目で支給。入社後約4年間にわたりこの支給を受けていた運転手が残業代請求訴訟を提起 →雇用契約書には残業手当の記載がなく、賃金規程には労働基準法上の計算式に基づく割増賃金の規定がある…

日常的な強い叱責がパワハラにはあたらないが安全配慮義務違反ありとされた事例

徳島地裁H30.7.9銀行職員が自殺し、遺族はパワハラ自殺と主張→赴任先で日常的に強い叱責を受けていたが職員のミスを指摘するものであり指導の範囲を逸脱しない。ただし、上司はこれらの状況を十分認識しており、職員が赴任後継続的に異動を希望し続けていた…

71歳の母親と28歳の妻、2歳の長女と同居している従業員に単身赴任となる転勤を命じ、拒否したため懲戒解雇した事案

最高裁S61.7.14大卒営業担当者に対し神戸から名古屋に転勤命令。営業担当者は、大阪府内で71歳の母親と28歳の妻、2歳の長女と同居しており、転勤に応じると単身赴任になるとしてこれを拒否した。会社は懲戒解雇。→①会社の就業規則には、業務上の都合により従…

外国人技能実習生の指導員について事業場外労働のみなし労働時間制の適用を否定した高裁判例

福岡高裁令和4年(ネ)第595号外国人技能実習生の指導員に事業場外労働のみなし労働時間制を適用できる?→実習受入れ企業への巡回業務の具体的スケジュールは指導員の裁量に委ねられていたが、訪問先・訪問頻度は決まっていた。日報により業務の遂行状況につい…

会社がずさんな秘密保持誓約書の提出を求めたことが会社の請求を認めない理由の1つとして判示された事例

大阪地裁R5.4.17会社が退職者に営業秘密を持ち出されたと主張して不正競争防止法に基づく損害賠償請求。従業員は問題の情報は秘密として管理されていなかったと主張→ファイルや書面に営業秘密である旨の表示がされていなかったこと、社外からのアクセスは制…

スマホの位置情報を示すGooglemapのタイムライン記録を証拠に残業代を請求された事例

東京地裁R1.10.23飲食店の従業員がスマホの位置情報を示すGooglemapのタイムライン記録を証拠に残業代請求→記録は編集可能であり完全に客観的証拠とはいえないが、取締役の証言や店の営業時間等とおおむね整合している。労働時間を適切に把握すべき会社が、…

懲戒処分としての降格に伴い基本給、役付手当を減額することは有効か?

東京高裁R3.6.23タイムカードを改ざんした部長を懲戒処分として次長に降格。これに伴い、基本給は104万円から75万円、役付手当は20万円から15万円に減額→降格が有効としてもそれに伴う減給には別途労働契約上の根拠が必要。役付手当については、賃金規程で部…

賃金規程に基づいてした給与等級引き下げの効力について判断された事例

東京高裁H19.2.22年功型賃金から成果主義賃金への変更にあたり、賃金規程に「評価の結果、本人の顕在能力と業績が、属する給与等級に期待されるものと比べて著しく劣ると判断した際は、給与等級と処遇を下げることもあり得る」と定めた。これに基づいて評価…

犯罪を犯したとして起訴され、起訴休職期間満了で解雇された職員が、不当な起訴であり解雇は刑事裁判終了を待つべきと主張した事例

大阪地裁H29.9.25 傷害致死罪で起訴された助教について、大学は起訴休職を適用し、就業規則に定めた2年の休職期間満了で解雇。助教は、不当な起訴であり、解雇は刑事裁判終了を待つべきと主張 →刑事裁判が2年を超えることがあるからといって、大学が2年を超…

主治医は復職可、産業医は復職不可と診断した従業員の復職可否について裁判所が判断した事例

東京地裁H23.2.25 会社の異動内示に強い拒否反応を示して不安障害を発症して休職していた従業員について、休職期間満了直前に主治医が「復職可。但し、会社が信頼回復の努力をし、発病時の上司が係わる職場でないことが条件」と診断。一方、産業医は「本人は…

派遣会社が予定していた契約を得られなかったことを理由に行った内定取消の効力について判断した事例

大阪地裁H16.6.9派遣会社が家電量販店からの業務委託契約を見込んで派遣する販売員を募集して内定を出し、研修した。しかし、その後予定の契約が得られず、内定を取り消した→内定者との雇用契約において就業場所が本件店舗に限定されており、派遣会社は内定…

特許事務所が入所時に従業員に提出させた競業避止義務の誓約の効力についての判断事例

大阪地裁H17.10.27特許事務所が入所者に「退職後2年間は、事務所の顧客にとって競合関係を構成する特許事務所・法律事務所に就職しない」とする誓約書を提出させた→一応、再就職禁止先が限定されているが、「事務所の顧客にとって競合関係を構成する」との文…

トラブルが絶えず、会社の信用を傷つける従業員に対して無給で出勤を禁止することができるか?

大阪地裁R5.3.24 パソコン販売会社に雇用され、家電量販店内で接客を担当する従業員が協力会社や家電量販店の従業員とのトラブルが絶えず、会社からは戒告処分を受け、量販店店長からは退店を命じられた。従業員は会社に対して職場復帰を求めたが、会社は認…

夏季休暇が「休日」なのか「休暇」なのか、が争点になった裁判例

東京地裁H30.7.18就業規則で土日祝と年末年始を所定休日と定めている事業者が、7月から9月の間に3日間の夏季休暇を付与。→裁判所は、これは「休暇」(労働契約上労働義務のある労働日について労働者が使用者から就労義務の免除を得た日)であって、労働者が…