労働判例・裁判例紹介 弁護士西川暢春

弁護士西川暢春がやっている労働判例postの補足ブログです。Xでは140文字以上は予約投稿できないため、長いものはこのブログで書いております。

会社がずさんな秘密保持誓約書の提出を求めたことが会社の請求を認めない理由の1つとして判示された事例

大阪地裁R5.4.17

会社が退職者に営業秘密を持ち出されたと主張して不正競争防止法に基づく損害賠償請求。従業員は問題の情報は秘密として管理されていなかったと主張
→ファイルや書面に営業秘密である旨の表示がされていなかったこと、社外からのアクセスは制限されているが社内の全従業員がアクセス可能であったこと、営業秘密であることの注意喚起や研修等を行っていなかったことなどから、営業秘密として管理されていなかったと判断。
さらに、会社が退職時に退職者に秘密保持に関する誓約書の提出を求めたことについて、「商品、サービス、財務、人事等に関する広範な情報を秘密情報とし、理由の如何を問わず、自己又は第三者のために開示、使用することを無期限に禁じ、退職後2年間もの間、競合企業への就職等を一切禁止する内容」であり、「仮に合意されたとしても明らかに公序良俗に反し無効なものであり、退職者がこれを拒否するのは当然」としたうえで、このような誓約書の要求は、「むしろ、会社において適切に営業秘密として管理していなかったことを窺わせる事情といえる」旨判示。会社の請求認めず。

☆秘密保持に関する誓約書の作成の際は対象となる秘密情報を特定することが重要です。上記裁判例の事案ではこれができておらず、安易に広範な情報を秘密情報として記載していたため、誓約書の提出を求めたことがむしろ逆効果となりました。秘密保持誓約書の作成例や作成方法は「労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式作成ハンドブック」でも書式29として詳細に解説しています。