労働判例・裁判例紹介 弁護士西川暢春

弁護士西川暢春がやっている労働判例postの補足ブログです。Xでは140文字以上は予約投稿できないため、長いものはこのブログで書いております。

会社がずさんな秘密保持誓約書の提出を求めたことが会社の請求を認めない理由の1つとして判示された事例

大阪地裁R5.4.17会社が退職者に営業秘密を持ち出されたと主張して不正競争防止法に基づく損害賠償請求。従業員は問題の情報は秘密として管理されていなかったと主張→ファイルや書面に営業秘密である旨の表示がされていなかったこと、社外からのアクセスは制…

スマホの位置情報を示すGooglemapのタイムライン記録を証拠に残業代を請求された事例

東京地裁R1.10.23飲食店の従業員がスマホの位置情報を示すGooglemapのタイムライン記録を証拠に残業代請求→記録は編集可能であり完全に客観的証拠とはいえないが、取締役の証言や店の営業時間等とおおむね整合している。労働時間を適切に把握すべき会社が、…

懲戒処分としての降格に伴い基本給、役付手当を減額することは有効か?

東京高裁R3.6.23タイムカードを改ざんした部長を懲戒処分として次長に降格。これに伴い、基本給は104万円から75万円、役付手当は20万円から15万円に減額→降格が有効としてもそれに伴う減給には別途労働契約上の根拠が必要。役付手当については、賃金規程で部…

賃金規程に基づいてした給与等級引き下げの効力について判断された事例

東京高裁H19.2.22年功型賃金から成果主義賃金への変更にあたり、賃金規程に「評価の結果、本人の顕在能力と業績が、属する給与等級に期待されるものと比べて著しく劣ると判断した際は、給与等級と処遇を下げることもあり得る」と定めた。これに基づいて評価…

犯罪を犯したとして起訴され、起訴休職期間満了で解雇された職員が、不当な起訴であり解雇は刑事裁判終了を待つべきと主張した事例

大阪地裁H29.9.25 傷害致死罪で起訴された助教について、大学は起訴休職を適用し、就業規則に定めた2年の休職期間満了で解雇。助教は、不当な起訴であり、解雇は刑事裁判終了を待つべきと主張 →刑事裁判が2年を超えることがあるからといって、大学が2年を超…

主治医は復職可、産業医は復職不可と診断した従業員の復職可否について裁判所が判断した事例

東京地裁H23.2.25 会社の異動内示に強い拒否反応を示して不安障害を発症して休職していた従業員について、休職期間満了直前に主治医が「復職可。但し、会社が信頼回復の努力をし、発病時の上司が係わる職場でないことが条件」と診断。一方、産業医は「本人は…

派遣会社が予定していた契約を得られなかったことを理由に行った内定取消の効力について判断した事例

大阪地裁H16.6.9派遣会社が家電量販店からの業務委託契約を見込んで派遣する販売員を募集して内定を出し、研修した。しかし、その後予定の契約が得られず、内定を取り消した→内定者との雇用契約において就業場所が本件店舗に限定されており、派遣会社は内定…

特許事務所が入所時に従業員に提出させた競業避止義務の誓約の効力についての判断事例

大阪地裁H17.10.27特許事務所が入所者に「退職後2年間は、事務所の顧客にとって競合関係を構成する特許事務所・法律事務所に就職しない」とする誓約書を提出させた→一応、再就職禁止先が限定されているが、「事務所の顧客にとって競合関係を構成する」との文…

トラブルが絶えず、会社の信用を傷つける従業員に対して無給で出勤を禁止することができるか?

大阪地裁R5.3.24 パソコン販売会社に雇用され、家電量販店内で接客を担当する従業員が協力会社や家電量販店の従業員とのトラブルが絶えず、会社からは戒告処分を受け、量販店店長からは退店を命じられた。従業員は会社に対して職場復帰を求めたが、会社は認…

夏季休暇が「休日」なのか「休暇」なのか、が争点になった裁判例

東京地裁H30.7.18就業規則で土日祝と年末年始を所定休日と定めている事業者が、7月から9月の間に3日間の夏季休暇を付与。→裁判所は、これは「休暇」(労働契約上労働義務のある労働日について労働者が使用者から就労義務の免除を得た日)であって、労働者が…

給与担当者が情報を他の職員に漏らしたことに対する叱責がパワハラにあたるとされた事例

那覇地裁R5.6.27 専務から、社員の昇給、昇格の見直しについて事前に聴いていた給与事務担当者が、他の社員にこれを話した。専務は「あなたがなんで自分で判断するの。職員に話して、大馬鹿野郎じゃないの。大問題だよ。これこそ懲罰事項になるんだよ。給与…

産休からの復帰に際し、週5勤務から週1勤務に変更することを提案したことが適法とされた事案

宮崎地裁R5.7.12病院が、産休から復帰する女医に勤務日を週5から週1に減らすことを提案。女医はこれを出産後の女性を差別するものである等として損害賠償請求→女医は産休前から精神障害の影響で睡眠が十分に取れず、勤務開始時刻等に配慮が必要であった。病…

診断書提出後もマスク着用を指示し続けたのは違法か?

大阪地裁R5.5.22 日本郵政株式会社がコロナ禍に郵便局職員にマスクの着用を指示。「マスクによる低酸素脳症の疑い」とする診断書を提出した後も着用指示を継続 →業務中にマスクの着用を指示したことは、当時広く社会において認識されていた感染予防に関する…

私傷病休職からの復職可否の審査に1か月超を要した場合にこの期間を無給とすることが認められるか?

大阪地裁R5.5.22 精神疾患による休職者が、2月上旬に復職可能の診断書を提出して復職を申し出たのに会社が3月20日まで復職させなかったのは不当と主張。この期間中、就業できなかったのは、会社の責めに帰すべき事由によるとして、民法536条2項に基づき、期…

退職勧奨対象者に転職支援休暇制度を案内して行った退職合意の効力について判断した事例

大阪地裁R4.9.9 大手商社が転職希望者向けに最長6か月の転職支援休暇制度を設け、休暇中固定給を支給・満了時に退職・失業給付は自己都合扱いと定めた。問題社員にこれを案内し、制度利用を希望したため、利用に必要と説明して退職合意書に署名させた (裁判…

他の従業員も宛先に入れた叱責メールの中で「言動に目に余るものを感じております」と書いたことがパワハラにあたるとされた事例

ランキング参加中労働問題・人事労務管理 東京地裁R5.1.30上司が部下Aに対し会議での打ち合わせとは異なる業務の進め方になっていると叱責するメールの中で「Aさんの言動にも目に余るものを感じております」等と記載して、他の従業員3名もCCや宛先に入れて送…

うつ病での服薬治療等のみを理由とする退職勧奨が違法とされた事案

京都地裁R5.3.9 運送会社が運転手から精神障害3級の記載のある扶養控除等申告書の提出を受けたことをきっかけにうつ病での服薬治療を知り退職勧奨→運転手の勤務状況等に特段問題はなく、精神障害等級3級との認定を受け、通院して服薬治療を受けていることの…

懲戒解雇の通知後に行った予備的普通解雇が無効とされた事案

東京地裁R3.6.25 職務怠慢やハラスメントを理由に従業員を懲戒解雇。その後、会社は弁護士に相談し、この従業員には懲戒歴がないため懲戒解雇は難しいことは承知しているが会社全体に与える影響から懲戒解雇に踏み切ったと弁護士に説明。これを受け、弁護士…

まじめな職員が業務を期限までに終えられないことを苦に自殺したことについて、積極的な業務指導や質問しやすい環境の構築を怠った義務違反があったとして賠償を命じた裁判例

新潟地裁R4.11.24勤続17年の市職員が期限までに業務を終えられないことを苦に自殺→上司は自分が部下に強く当たっており職場内が会話がなく質問しにくい環境にあることや、自殺した職員が物静かで悩みを他に相談しない性格であることを認識していたのだから、…

外資系企業における整理解雇について判断した事例

東京地裁R3.12.13 外資系金融機関が月給350万円の本部長を整理解雇。会社は、このような解雇が無効なら国際企業の日本撤退を招くと主張 →国際企業の人事労務管理と整合する合理的な労働契約や就業規則を整備し、解雇の客観的な資料を保存することで対処可能…

タクシー会社で一定時間を超える駐停車時間は休憩時間と扱う旨を就業規則で定めることができるか?

福岡地裁H25.9.19就業規則でタクシー運転手の駐停車が5分を超える場合は休憩時間として扱う旨を定めることはできる?→タクシー運転手の休憩時間は、場所、時間帯や気候等の諸状況により乗客獲得見込みが異なるため、一定程度運転手の判断に委ねざるを得ず、…

有期雇用の派遣社員の雇止めが有効とされた事案

東京地裁R4.11.18派遣会社が有期雇用の派遣社員の2回目の契約更新に応じず雇止め。派遣社員が雇止めの無効を主張して提訴→通算雇用期間は9か月にすぎず、雇用契約の更新の判断基準は「派遣先が更新を希望しない場合かつ労働者の希望する就業先がないとき」と…

配転命令を受けた従業員からの職種限定合意の主張が認められなかった事例

大阪地裁R5.3.31製造業で30年以上システム課で勤務していた従業員を工場検査課に配転。従業員は職種限定合意があり、配転は無効と主張→「システム課の職員募集(コンピュータ要員)」との求人広告に応募して採用されたとしても、これは最初の配属部署を記載…

形成外科医のオンコール当番待機時間は労働時間か?

千葉地裁R5.2.22 病院が就業時間外で形成外科医のオンコール当番を決め、その時間帯は当直医からの電話による処置方法の質問に対応し、必要により出勤して自ら措置するために待機することを求めた→緊急性の比較的高い業務に限り短時間の対応が求められていた…

社労士にちゃんと相談せずに職員を管理監督者扱いした事案において、社長個人が残業代分の賠償責任を負うとされた事例

名古屋高裁R5.2.22 介護事業者が主任ケアマネを管理監督者扱い。主任は会社に残業代請求したが会社が清算されたため、元社長に損害賠償請求 →この事案において主任は管理監督者にはあたらないと判断。さらに、社長は主任の業務が管理監督者にふさわしいかを…

殺人未遂容疑で逮捕された営業担当者に対して、会社が釈放後に行った休職命令は適法か?

大阪地裁R5.6.8営業担当者が自宅マンション高層階から1階に向けて消火器を投げ、殺人未遂容疑で逮捕され報道された→釈放後も就業させると会社の信用低下や社外からの問合せ対応等による業務の支障のおそれがあり、釈放後も約5か月間にわたり無給で休職させた…

解雇された従業員からの「指導が不十分であった」という主張を認めなかった事例

東京地裁H21.10.15 病院が事務員を解雇したところ病院の指導不足だと反論された →採用後にオリエンテーションや他の職員の業務見学の機会を設けて業務に慣れるよう配慮し、また網羅的なマニュアルを交付し、事務員も指導を受けた点はその都度メモをとってい…

試用期間満了20日前の解雇が解雇の選択の時期を誤ったものであり無効と判断された事案

東京地裁H21.10.15 病院が事務員を3か月の試用期間の満了20日前に解雇 →事務員のミスは見過ごせないものであり指導も不十分ではないが、指導の結果改善傾向にあり、残りの試用期間勤務すれば病院の要求水準に達する可能性もあった。20日前の解雇は解雇すべき…

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