労働判例・裁判例紹介 弁護士西川暢春

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試用期間満了20日前の解雇が解雇の選択の時期を誤ったものであり無効と判断された事案

東京地裁H21.10.15

 
病院が事務員を3か月の試用期間の満了20日前に解雇

→事務員のミスは見過ごせないものであり指導も不十分ではないが、指導の結果改善傾向にあり、残りの試用期間勤務すれば病院の要求水準に達する可能性もあった。20日前の解雇は解雇すべき時期の選択を誤ったものであり解雇無効

 

掲載誌 労判 999号54頁

試用期間満了の直前の時期に、この事務員が職場内のパワハラ等を訴えて病院外の第三者にもパワハラを訴える手紙を送るなどしたうえ、パワハラにより適応障害を発症し当分自宅療養が必要とする診断書を出したという経緯を踏まえて解雇したという事案です。裁判所は指導は適切なものだったとしてパワハラ適応障害の業務起因性は否定しましたが、「パワハラ等を訴える手紙が送付されたのであるから,被告(病院)から原告(事務員)に対し,これらの手紙の内容が誤解であるならばその旨真摯に誤解を解くなどの努力を行い,その上で職務復帰を命じ,それでも職務に復帰しないとか,復帰してもやはり被告(病院)の要求する常勤事務職の水準に達しないというのであれば,その時点で採用を取り消すとするのが前記経緯に照らしても相当であったというべき」と判示しています。
適応障害で自宅療養を要すると診断されているのに復帰を求めるべきだったとする判示は疑問もあり、残りの試用期間について出勤の見込みが立たないのにここまで言われるのは不条理であると感じます。ただ、試用期間の途中で解雇した事案について解雇が時期尚早と指摘されて無効とされる例は少なくなく、本件で仮に合意による解決が難しかったとしても満了までは自宅療養させたうえで満了時に本採用拒否すべきだったと考えます。

 

試用期間中の解雇については以下もご参照ください。

kigyobengo.com