東京地裁R5.10.25
協調性や事務処理の効率性に問題があり、これらの点について具体的に指摘されたにもかかわらず改善ができていなかった勤続2年目の従業員に対し、社長室の本棚改装工事のため、本棚の書籍(段ボール121箱分)を段ボールに詰めて移動させ、工事が完了したらまた元の位置に戻すという作業を命じた。
従業員はまず5階の書籍の箱詰め作業を行ったが、3月3日の作業後、日報に〔1〕腰が痛い〔2〕5日は腰を休ませるために箱詰め作業は休みたい〔3〕月曜から中二階の本棚について作業を開始するが、重めのカタログが多く、大変そうなので、1人だけの作業ではなく、バイトを呼んで手伝ってもらえるかを検討してほしい旨を記載した。
これを受けて、上司は、5階の残りの作業は自分がやるので大丈夫である旨を従業員に伝えて、自分で作業を行った。
その後、従業員は3月8日から16日かけて、5階にある書籍より重い書籍もある中2階の本棚の書籍の箱詰め作業を行った。さらに、従業員は、3月22日以降、書籍を本棚に戻す作業を行ったが、上司はアルバイトに従業員の作業を手伝うように命じた。その後、25日に、従業員が腰が痛いので作業できない旨を申し出たため、上司は、従業員をこの作業から外した。従業員はその後、腰痛症と診断され、上司の指示は肉体的精神的苦痛を与える業務を命じたものであり、不法行為であると主張
→上司は業務上の必要性があって作業を命じたものであるから、腰に負担のかかる作業であったとしても、これを理由に上司の言動が不法行為を構成するとまではいえない。しかし、3月3日に作業軽減の申出を受けた後、8日以降により重い書籍が存在する中2階の書籍の箱詰め作業を行わせ、22日までアルバイトに手伝わせず、結果として従業員が腰痛症を発症しているのであるから、上司の対応は、従業員からの作業軽減の申出に対する対応としては配慮を著しく欠く。上司の言動は労働者が身体等の安全を確保しながら労働することができる法的な利益を侵害したものとして不法行為にあたると判断。