労働判例・裁判例紹介 弁護士西川暢春

弁護士西川暢春がやっている労働判例postの補足ブログです。Xでは140文字以上は予約投稿できないため、長いものはこのブログで書いております。

外国人技能実習生の指導員について事業場外労働のみなし労働時間制の適用を否定した高裁判例

福岡高裁令和4年(ネ)第595号
外国人技能実習生の指導員に事業場外労働のみなし労働時間制を適用できる?
→実習受入れ企業への巡回業務の具体的スケジュールは指導員の裁量に委ねられていたが、訪問先・訪問頻度は決まっていた。日報により業務の遂行状況について比較的詳細な報告をし、使用者がその正確性を訪問先等に確認することも可能だった。労働時間の把握が困難とはいえないとして、適用認めず

詳細は以下をご参照ください

https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2023/jiangaiyou_05_365.pdf 

 

 

会社がずさんな秘密保持誓約書の提出を求めたことが会社の請求を認めない理由の1つとして判示された事例

大阪地裁R5.4.17

会社が退職者に営業秘密を持ち出されたと主張して不正競争防止法に基づく損害賠償請求。従業員は問題の情報は秘密として管理されていなかったと主張
→ファイルや書面に営業秘密である旨の表示がされていなかったこと、社外からのアクセスは制限されているが社内の全従業員がアクセス可能であったこと、営業秘密であることの注意喚起や研修等を行っていなかったことなどから、営業秘密として管理されていなかったと判断。
さらに、会社が退職時に退職者に秘密保持に関する誓約書の提出を求めたことについて、「商品、サービス、財務、人事等に関する広範な情報を秘密情報とし、理由の如何を問わず、自己又は第三者のために開示、使用することを無期限に禁じ、退職後2年間もの間、競合企業への就職等を一切禁止する内容」であり、「仮に合意されたとしても明らかに公序良俗に反し無効なものであり、退職者がこれを拒否するのは当然」としたうえで、このような誓約書の要求は、「むしろ、会社において適切に営業秘密として管理していなかったことを窺わせる事情といえる」旨判示。会社の請求認めず。

☆秘密保持に関する誓約書の作成の際は対象となる秘密情報を特定することが重要です。上記裁判例の事案ではこれができておらず、安易に広範な情報を秘密情報として記載していたため、誓約書の提出を求めたことがむしろ逆効果となりました。秘密保持誓約書の作成例や作成方法は「労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式作成ハンドブック」でも書式29として詳細に解説しています。

 

スマホの位置情報を示すGooglemapのタイムライン記録を証拠に残業代を請求された事例

東京地裁R1.10.23
飲食店の従業員がスマホの位置情報を示すGooglemapのタイムライン記録を証拠に残業代請求
→記録は編集可能であり完全に客観的証拠とはいえないが、取締役の証言や店の営業時間等とおおむね整合している。労働時間を適切に把握すべき会社が、客観的証拠を提出してこれに反論していないこと等も踏まえ、タイムライン記録が示す店舗滞在時間を休憩時間を除き労働時間と認めると判断

懲戒処分としての降格に伴い基本給、役付手当を減額することは有効か?

東京高裁R3.6.23
タイムカードを改ざんした部長を懲戒処分として次長に降格。これに伴い、基本給は104万円から75万円、役付手当は20万円から15万円に減額
→降格が有効としてもそれに伴う減給には別途労働契約上の根拠が必要。役付手当については、賃金規程で部長月20万円、次長月15万円と定められており、減額有効。他方、基本給については、減額の根拠規定がなく減額無効と判断

賃金規程に基づいてした給与等級引き下げの効力について判断された事例

東京高裁H19.2.22
年功型賃金から成果主義賃金への変更にあたり、賃金規程に「評価の結果、本人の顕在能力と業績が、属する給与等級に期待されるものと比べて著しく劣ると判断した際は、給与等級と処遇を下げることもあり得る」と定めた。これに基づいて評価がよくなかった従業員の給与等級を引き下げた
→上記規定は「本人の顕在能力と業績」に着目することにより、外部に表れた従業員の行為とその成果を降級の基準としている。そうであれば、会社は人事評価につき裁量があるとしても、降級については、根拠となる具体的事実を挙げて、本人の顕在能力と業績が、本人の属する給与等級に期待される水準と比べて著しく劣ることの立証を要する。本件ではこの立証がないとして給与等級引き下げを認めず、会社に対し、引き下げ前との差額分の賃金の支払命令

 

 

犯罪を犯したとして起訴され、起訴休職期間満了で解雇された職員が、不当な起訴であり解雇は刑事裁判終了を待つべきと主張した事例

大阪地裁H29.9.25

傷害致死罪で起訴された助教について、大学は起訴休職を適用し、就業規則に定めた2年の休職期間満了で解雇。助教は、不当な起訴であり、解雇は刑事裁判終了を待つべきと主張

→刑事裁判が2年を超えることがあるからといって、大学が2年を超えて休職を認める不利益を受け入れるべき理由はない。大学は、助教に休職期間中の賃金を支払う義務を負わないとしても、その間、助教による労務の提供を受けることができない不利益が生じることは明らかである上、これを補填するために臨時的に新たな職員を補充することが不可能ではないとしても、起訴休職事由が解消されるかどうかや、いつ解消されるかどうかも不明のまま、助教との雇用関係を維持するために、大学が臨時的雇用による対応を継続しなければならない義務はない。解雇有効と判断。